カリフォルニアのモントレー、パリのレトロモビル。競売の会社が書いた記録で読む、値段と来歴
古いフェラーリの値段は、世界に名の知れた競売で決まります。夏のカリフォルニアのモントレー、パリの古い車の催しレトロモビル。そこで売られた車の説明を、競売の会社は長い文章で残しています。車台番号、つくられた月、勝ったレース、歴代の持ち主。このページでは、記録になった五台のフェラーリを、競売の会社そのものが書いた資料で読みます。
CHAPTER 1どこで売られるのか
1-1 モントレーの八月
古い車の競売でいちばん大きな舞台は、アメリカのカリフォルニア州、モントレーです。8 月になると、RM Sotheby's もボナムスも、この土地で競売を開きます。
RM Sotheby's は、モントレーの競売を自分たちの看板の催しと呼んでいます。Sotheby's の記事によると、2023 年は三日間の競売で 164 百万ドルを売り上げました。出した車のうち、売れた割合は 86 パーセントです。
カリフォルニアのカーメルでは、ロンドンに本拠を置くボナムスが競売を開きます。会場はクエイル・ロッジです。ボナムスの発表によると、2014 年 8 月 14 日の競売では、会場の建物が人でいっぱいになり、入りきれない人たちが、芝生の上のテレビの画面で成り行きを見守りました。
競売だけの催しではありません。同じ時期に、ペブル・ビーチで古い車の美しさを競う催しが開かれます。RM Sotheby's の記録によると、2011 年のその催しでは、250 GTO を祝う場が設けられ、何台もの GTO が一か所に集まりました。
車を見せる催しがあり、持ち主が集まり、そこに競売が重なる。売り手にとっても買い手にとっても、世界でいちばん人の集まる一週間です。高い車がここで売られるのは、そのためです。
1-2 パリのレトロモビル
ヨーロッパの大きな舞台は、パリです。古い車の催しレトロモビルに合わせて、競売が開かれます。
フランスの競売の会社アールキュリアルは、自動車の部門をアールキュリアル・モーターカーズと呼び、レトロモビルの名前を付けた競売を開いています。2016 年の競売は「Rétromobile 2016 by Artcurial Motorcars」という名前で、番号は 2877 でした。
その競売の 170 番目の品が、1957 年のフェラーリ 335 スポルトです。見込みの額は 28,000,000 ユーロから 32,000,000 ユーロ。アールキュリアルのページには、32,100,000 ユーロで売れたと書かれています。
RM Sotheby's も、パリで競売を開いています。2019 年には F40 LM が、2025 年には 250 LM が、パリの競売に出ました。2025 年の 250 LM は、34,880,000 ユーロで売れています。
Sotheby's の記事を読むと、舞台はほかにもあります。イタリアの湖のほとりの催し、アメリカのフロリダ、そして中東のドバイ。2023 年には、ラスベガスの F1 のグランプリに合わせた競売まで開かれました。古い車の競売は、一年じゅう、世界のどこかで開かれています。
1-3 競売の会社
競売の会社は、車だけを売っているのではありません。もともとは、絵や古い家具を売る会社です。
ボナムスの発表は、会社の成り立ちを書いています。創業は 1793 年。いまの会社は、2001 年 11 月に二つの会社が一緒になってできました。2002 年 8 月には、アメリカの西海岸の大きな競売の会社を買い取っています。世界の 25 の国に事務所があり、60 の分野の専門の部門を持っています。
RM Sotheby's は、絵の競売で知られるサザビーズの名前を持つ、車の競売の会社です。記事によると、同じ会社の中に古い車を直す部門もあり、その部門が直した車は、ペブル・ビーチの催しで二年続けていちばんの賞をとりました。
アールキュリアルは、フランスの競売の会社です。ページのいちばん上には、不動産の会社や、馬の競売の会社が、同じグループとして並んでいます。
絵を売る会社が車を売っている、ということには意味があります。Sotheby's の記事の中で、RM Sotheby's の担当者はこう言っています。車の世界は、絵の世界と似てきている。来歴が、ますます大事になっている、と。
CHAPTER 2記録になった五台
2-1 2014 年、38,115,000 ドル
| 年 | 車 | 競売 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 2014 | 250 GTO(車台番号 3851GT) | ボナムス、クエイル・ロッジ | 38,115,000 ドル |
| 2016 | 335 スポルト(車台番号 0674) | アールキュリアル、パリ | 32,100,000 ユーロ |
| 2018 | 250 GTO(車台番号 3413) | RM Sotheby's、モントレー | 48,405,000 ドル |
| 2023 | 330 LM / 250 GTO(車台番号 3765) | RM Sotheby's、ニューヨーク | 51,705,000 ドル |
| 2025 | 250 LM(車台番号 5893) | RM Sotheby's、パリ | 34,880,000 ユーロ |
2014 年 8 月 14 日、ボナムスのクエイル・ロッジの競売で、1962 年のフェラーリ 250 GTO が 38,115,000 ドルで売れました。ボナムスは、競売で売られた車の中で、歴史上いちばん高い車になったと発表しています。
それまでの記録も、ボナムスのものでした。前の年にイギリスの催しで売った、1954 年のメルセデス・ベンツの F1 の車です。値段は 30 百万ドルでした。
発表は、会場の様子も伝えています。値を競り合う声は、ときにテニスの試合のようだった。静まり返ったかと思うと、歓声が上がる。木づちが落ちて値段が決まったとき、会場は拍手に包まれた、と。
ボナムスの会長は、こう言っています。この車は 30 百万ドルから 40 百万ドルになると言い続けてきた。きょう、そのとおりになった、と。
この GTO は、一つのまとまった集まりの中の一台でした。マラネッロ・ロッソという名前の、十台のフェラーリの集まりです。十台の合計は 65,945,000 ドルでした。発表の題には、この車の歴代の持ち主の名前が、そのまま並んでいます。競売では、だれが持っていた車かが、車の名前の一部になります。
2-2 パリの二台。335 スポルトと 250 LM
パリで売れた二台は、どちらもレースで名を残した車です。
1957 年の 335 スポルト、車台番号 0674 は、工場のチームの車でした。アールキュリアルの記録によると、1957 年のミッレ・ミリアでは、ヴォルフガング・フォン・トリップスが乗って二位に入っています。同じ年のルマン 24 時間では、マイク・ホーソーンがこの車で、一周の平均が時速 200 キロメートルを初めて超える記録を出しました。正確には時速 203.015 キロメートルです。
11 月のベネズエラのグランプリでは二位に入り、フェラーリが製造者の世界一を決めるのを助けました。1958 年のはじめに、ニューヨークの輸入元ルイジ・キネッティに売られ、キューバのグランプリで、マステン・グレゴリーとスターリング・モスが勝っています。
1970 年、車はフランスの収集家ピエール・バルディノンの手に渡りました。記録は、この人を、世界でいちばん目の利くフェラーリの収集家の一人と呼んでいます。自分の土地に、自分のためのサーキットまでつくった人でした。
もう一台、2025 年の 250 LM は、車台番号 5893 です。RM Sotheby's の記録によると、1965 年のルマン 24 時間を総合で勝った、その車でした。乗ったのはマステン・グレゴリーとヨッヘン・リントです。記録は、工場のチームではない個人の側が出したフェラーリで、ルマンを総合で勝ったのは、この一台だけだと書いています。
この車は、1970 年にアメリカのインディアナポリスのサーキットの博物館に買われ、54 年のあいだ、そこで守られてきました。250 LM は 32 台つくられ、これはその六台目です。
2-3 二台の GTO。48,405,000 ドルと 51,705,000 ドル
2018 年 8 月、RM Sotheby's のモントレーの競売に、250 GTO の車台番号 3413 が出ました。Sotheby's の記事は、競売に出された車の中で、歴史上いちばん高い車だと紹介しています。見込みは 45 百万ドルを超える額。結果は 48,405,000 ドルでした。
記事は、GTO が競売に出ることの珍しさも書いています。新しい千年紀に入ってから、GTO が公の競売に出るのは、これで三度目にすぎない、と。250 GTO は、36 台しかつくられていません。
2023 年には、もう一台が出ました。車台番号 3765 です。RM Sotheby's はニューヨークで、この一台だけのための競売を開きました。結果は 51,705,000 ドル。Sotheby's の記事によると、競売で売られた車の中で、二番目に高い額でした。
この車は、ふつうの 250 GTO とは少し違います。記録によると、工場が 4 リットルのエンジンを積んだ、ただ一台の GTO でした。そして、1962 年の型の GTO の中で、スクーデリア・フェラーリ自身がレースで走らせた、ただ一台です。1962 年のニュルブルクリンクの 1000 キロメートルで総合二位に入り、同じ年のルマン 24 時間も走りました。
一人の持ち主が、38 年のあいだ持ち続けた車でした。記録は、その 38 年を、念入りな手入れの年月だったと書いています。長く持たれた車ほど、来歴がはっきりします。
CHAPTER 3値段を決めるもの
3-1 来歴と、番号
同じ型の車でも、値段は一台ごとに違います。競売の記録を読むと、何が値段を決めているのかが見えてきます。
一つ目は、来歴です。だれがつくらせ、だれが乗り、どのレースを走り、だれの手を渡ってきたか。車台番号 3413 の記録は、最初の持ち主から、競売に出した持ち主まで、一人も抜かさずに書いています。記事は、これを「途切れのない持ち主の鎖」と呼んでいます。
二つ目は、番号が合っていることです。エンジン、変速機、後ろの車軸に打たれた番号が、工場を出たときの記録と同じかどうか。3413 の記録は、もとのエンジンの本体、変速機、後ろの車軸がそろっていると書いています。
三つ目は、傷のなさです。Sotheby's の記事によると、3413 は現役のころに 20 のレースを走り、一度も事故を起こさず、一度も途中で止まりませんでした。記事は、レースの車としては珍しいことだと書いています。
四つ目は、確かめた人の名前です。記録には、フェラーリの古い車の部門の人が車をじかに調べたこと、名の知れた歴史家が調べたことが書かれています。
車そのものより、車について書かれた紙のほうが、値段を動かすことがあります。競売の会社が長い説明を書くのは、そのためです。
3-2 競売の決まりごと
競売の記録には、売り方の決まりごとも書かれています。
まず、見込みの額です。競売の会社は、いくらで売れそうかを先に示します。335 スポルトは 28,000,000 ユーロから 32,000,000 ユーロ。結果は、その上の端でした。
売れないこともあります。RM Sotheby's の 2017 年のロンドンの競売に出た F40 は、775,000 ポンドから 975,000 ポンドの見込みでしたが、記録には「売れず」と書かれています。見込みの額が示されても、その値で買う人が現れるとは限りません。
高い車には、特別な決まりが付くことがあります。3413 の記録には、こう書かれています。この品に値を付けられるのは、前もって競売の会社に申し出て、認められた人だけである。インターネットからは値を付けられない、と。
もう一つ、売り手への約束もあります。3413 の記録には、売り手は最低の額を保証されている、という注が付いています。保証するのは競売の会社か、競売の会社と別のだれかです。売れれば得をし、売れなければ損をするかもしれない、と記録は自分で断っています。
買う人は、落札の額のほかに、競売の会社へ手数料を払います。オーストラリアの競売の会社の記録は、買い手の手数料を 7 パーセントと書いています。手数料は、落札の額とは別に払うものです。
3-3 売られたあとも、走る
これほど高い車は、買われたあと、倉にしまわれるだけなのでしょうか。記録を読むと、そうとは限りません。
車台番号 3413 を 2000 年に買った持ち主は、この車で古い車のレースに出つづけました。RM Sotheby's の記録には、出た催しが並んでいます。古いフェラーリのレースのシリーズに四つの季節。モントレーの古い車のレース。イギリスのグッドウッドの催し。記録は、世界でいちばんよく走っている GTO の一台だと書いています。
GTO には、持ち主だけの集まりもあります。Sotheby's の記事によると、1982 年に、フランスの収集家たちが最初の集まりを開きました。それから五年ごとに、持ち主たちが選んだ国を、走って、食事をして回る旅が開かれています。入るための条件は、GTO を持っていることだけです。
記録は、この集まりを、ごく限られた人だけのクラブとして書いています。GTO の持ち主になれるのは、どの時点でも 36 人以下だからです。
速く走るためにつくられた車が、六十年たって、いちばん高い車になりました。それでも持ち主たちは、車を走らせています。3413 の記録は、GTO の持ち主になれば、世界のいちばん大事な車の催しにすぐ加われる、と書いて終わっています。値段の先にあるのは、走る場所です。
SOURCES出典
- Bonhams「Ferrari 250 GTO Achieves $38,115,000, A New World Auction Record at Bonhams Quail Lodge Sale」(2014 年 8 月 14 日)
https://www.bonhams.com/press_release/17205/(2026-10-02 確認) - Artcurial「Sale n°2877 / Rétromobile 2016 by Artcurial Motorcars, Lot 170: 1957 Ferrari 335 Sport Scaglietti」
https://www.artcurial.com/en/sales/2877/lots/170-a(2026-10-02 確認) - RM Sotheby's Monterey 2018, Lot 247「1962 Ferrari 250 GTO by Scaglietti」(車台番号 3413)
https://rmsothebys.com/auctions/mo18/lots/r0117-1962-ferrari-250-gto-by-scaglietti/(2026-10-02 確認) - Sotheby's「This 1962 Ferrari 250 GTO Is The Most Valuable Car Ever Offered at Auction」
https://www.sothebys.com/en/articles/this-1962-ferrari-250-gto-is-the-most-valuable-car-ever-offered-at-auction(2026-10-02 確認) - RM Sotheby's New York 2023「1962 Ferrari 330 LM / 250 GTO by Scaglietti」(車台番号 3765)
https://rmsothebys.com/auctions/gt23/lots/r0001-1962-ferrari-330-lm-250-gto-by-scaglietti/(2026-10-02 確認) - Sotheby's「2023 In Review: RM Sotheby's」
https://www.sothebys.com/en/articles/2023-in-review-rm-sothebys(2026-10-02 確認) - RM Sotheby's Paris 2025, Lot 262「1964 Ferrari 250 LM by Scaglietti」(車台番号 5893)
https://rmsothebys.com/auctions/pa25/lots/r0008-1964-ferrari-250-lm-by-scaglietti/(2026-10-02 確認) - RM Sotheby's London 2017, Lot 117「1988 Ferrari F40」(車台番号 80786)
https://rmsothebys.com/auctions/lf17/lots/r152-1988-ferrari-f40/(2026-10-02 確認) - RR Auctions, Lot 17「1990 Ferrari F40」
https://rrauctions.com.au/lot/17(2026-10-02 確認) - Sotheby's「Everything You Need to Know about the Ferrari F40」
https://www.sothebys.com/en/articles/everything-you-need-to-know-about-the-ferrari-f40(2026-10-02 確認)
この記事は、上の資料の原文を確かめたうえで書いています。年や台数などの数は、資料に書かれているものだけを使いました。資料どうしで書き方が違う所は、本文でそのように断っています。記事の中の社名と車名は、各社の商標です。